2019年は、女優の沢尻エリカさんのMDMA所持報道や、田代まさしさんの薬物関連の再逮捕報道など、芸能人の薬物問題が大きく注目された年でした。加えて、タレントJOYさんのSNS投稿(「定期的な薬物検査ルールがあっても良いのでは」という趣旨)も話題になり、世の中の関心が高まった時期でもあります。
「芸能界は派手だから薬物に染まりやすい。一般人には関係ない」
そう捉える方もいるかもしれません。
しかし薬物は、芸能人だけの問題ではありません。一般社会にも広がっており、所持・使用で刑務所に入る人は少なくなく、出所しても再び薬物に戻ってしまう例もあります。
本記事では、2019年当時の報道をきっかけに、
薬物依存はなぜ“やめたくてもやめられないのか”、そして周囲がどう向き合うべきかを整理します。
薬物は「一度捕まればやめられる」とは限らない
多くの人は、こう考えます。
- 一度刑務所に入れば懲りる
- もう二度と同じことはしないはず
- だから薬物に手を出す人の気持ちが理解できない
しかし、薬物依存が進行している人の思考は、一般的な「合理的判断」と一致しないことがあります。
このズレこそが、薬物問題の難しさです。
いまの“やめさせ方”が機能しにくい理由
日本では、薬物を含む犯罪に対して「厳しく罰する」ことで抑止しようとする考え方が強い傾向があります。もちろん法的な抑止は重要です。
ただ一方で、薬物依存の現場では
「罰を重くすること」と「依存から抜け出すこと」が直結しないケースが起こり得ます。
なぜなら、依存の根っこには
- 強いストレス
- 孤独
- 自己否定
- 生活の破綻
- 人間関係の崩壊
などの“心の問題”が絡んでいることが多く、罰だけでは原因が解消されないからです。
「反省させる」だけでは再発リスクが下がらないことがある
薬物を使用した人に対して、社会は強い非難を向けがちです。仕事を失い、信用を失い、居場所を失う。これは社会的制裁として機能します。
ただ、依存の当事者が「居場所を失った状態」で立ち直るのは、現実的に難しくなることがあります。
追い詰められ、相談できず、ストレス発散の手段もなくなると、再び薬物に向かう“言い訳”を自分の中で作ってしまう人がいるからです。
「悪いことをしたのだから罰を受けるべき」
これは正論です。
しかし依存症という側面を踏まえるなら、罰と並行して
再発を防ぐための支援・環境整備がなければ、結果として再犯者を増やす方向に働く可能性もあります。
再発の原因は「誘惑」よりも「心の状態」であることが多い
薬物の再発は、「誰かに勧められたから」と単純に説明されがちです。
もちろん誘いはきっかけになります。
しかし本質は、もっと手前にあります。
- ストレスが限界
- 眠れない/不安が止まらない
- 孤独で誰にも相談できない
- 失敗してもやり直せないと感じている
こうした心の状態があると、本人の中で「薬物を選ぶ理由」が育ってしまいます。
言い換えると、再発を減らすためには
「誘惑を断て」だけではなく、心の問題が噴き出さない生活環境を整える必要があります。
社会が「疑い」ではなく「更生」を前提に関われるか
現代社会は、他者を警戒する空気が強くなっています。
- ハラスメントの多様化
- メンタル不調の増加
- 生活不安
- 人間関係の希薄化
- SNSでの炎上や断罪
こうした環境では、薬物依存の当事者に対して「信頼」を前提に接することが難しくなります。
しかし、依存から抜け出すには、少なくとも本人の周囲に
“やり直してもいい”と思える居場所が必要になります。
社会ができる理想は、無条件で許すことではありません。
現実的には次のような姿勢です。
- 薬物は絶対に肯定しない
- ただし、更生の道を塞がない
- 支援や治療、監督の仕組みを用意する
- 孤立させず、再発の引き金(ストレス・孤独)を減らす
芸能人の薬物問題が“再発しやすい”と言われる背景
芸能界は、一般の生活と比べて
- 不規則な生活
- 過度なプレッシャー
- 誹謗中傷や世間の視線
- 収入や立場の急激な変動
など、心身に強い負担がかかりやすい環境です。
薬物に手を出すことは決して許されません。
ただ、再発防止という観点では、社会が「断罪だけ」で終わらせるほど、本人が追い詰められ再発の土壌を作ってしまう可能性があります。
まとめ:薬物問題は「罰」だけで終わらせない設計が必要
薬物依存は、単なる意志の弱さだけで説明できないケースがあります。
再発を減らすためには、法的抑止と同時に
- 心の問題へのケア
- 孤立させない環境
- 社会復帰のルート
- 周囲の理解と協力
が必要になる場面があります。
薬物は絶対に正当化できません。
しかし、社会が「更生を可能にする仕組み」を持たない限り、再発を繰り返す人を生みやすい構造は残り続けます。




